香水の魅力
体臭をカバーするためだけじゃない
「体臭の少ない日本人に香りは必要ないのでは?」とよく聞かれます。たしかに日本人は、体臭が少ないといわれています。そのうえきれい好きで、ほとんど毎日入浴します。
しかし、だからといって香りは必要でない、というわけではありません。現代の香水は、もはや体臭をカバーするためだけのものではないのです。ファッションと同じように、香りは、その人のライフスタイルを表現し、個性を引き出し、より魅力的に見せるものです。
また、芸術的な香りは、まるで音楽や絵画のように私たちのイマジネーションを大きく膨らませ、ロマンチックな気分にしたりセクシーなムードに酔わせたりします。
それだけではありません。ある種の香りをリフレッシュさせるだけでなく、ストレスなどを軽減する効果にも優れていることがわかってきました。このような香りは特に「癒しの香り」と親しまれ、現代生活に欠かせないものになっています。
こんな香りの魅力に、ぜひ触れてみてください。
香水選びのお手伝い
親しい友人のひとりに、スタイリッシュですてきな女性がいます。
オペラ狂いのバラマニア、しかもテニスはプロ並みです。そのうえ英語が堪能で、大学受験生に英語を教えているというスーパーウーマンです。
数年前、彼女から、香水を贈りたいのでアドバイスしてほしいとう依頼がありました。厳しい受験勉強を終えた教え子たちに、プレゼントしたいというのです。
「だって、あの子達は、小、中、高校とずーっと勉強ばかりしてきたんですもの。世の中には美しくて、情緒的なものもあるということを分かってもらいたいの。それから香水がいちばんでしょう」
以来、生徒ひとりひとりのイメージに合わせて、香水選びのお手伝いをしています。後から、教え子や両親からとても喜ばれたと聞くと、とてもうれしい気分です。
ところで、我が娘たちが成人した後、妻とふたりきりの暮らしになりました。そこでクリスマスは同じような境遇の友人たちと、招いたり招かれたりして楽しむようになりました。
日常生活にハリを与えるスパイスとして、少しオシャレして華やかにパーティーをします。ただし「持ち寄る料理は、夫婦合作であること」、「高価になりすぎない範囲で、お互いにプレゼントを用意すること」が決まりです。
仕事柄、私には「香りのプレゼント」が課せられています。しかし、ある奥様だけは、香水が苦手だというので困ってしまいました。
ある年、試しに彼女の誕生年に発売された香水のソープを、「あなたと同じ歳です」と贈ったところ、話が弾みました。
そこで翌年のプレゼントは、同じ香りのダスティングパウダーにしたらうすっかり気に入って、次はぜひ香水をと所望されました。いまでは彼女はすっかり香水にはまっています。
香りは好き嫌いがあるので、プレゼントするのは難しいと思われています。でも、そう考えるのであれば、スカーフやアクセサリーをプレゼントに選ぶのもまったく同じです。したがって、相手の好みやイメージを目安に選べばいいのです。
それとも相手の思い出のエピソードや記念日などを聞いておき、その記念すべき思い出に合った香りを贈ればいいと思います。
「モノ」ではなく「ドラマ」を贈る。プレゼントはそうありたいものです。
汗と香水の関係~汗臭くならないようにするには
電車に乗っていたときのことです。一瞬、車両を変わろうかなと思いました。途中から、試合を終えたバスケット部の女子高校生の一団が乗り込んできたからです。
とはいっても、スポーツ選手が嫌いなわけではありません。こういう人たちの汗のにおいが苦手なのです。
汗のにおいは私のトラウマだからです。
小学生のとき、柔道を習いにいきました。
でも初めての日、30分もしないうちに諦めました。すえたような汗のにおいの充満している道場に我慢ができなかったのです。いまはどうか知りませんが、当時は、柔道着をあまり洗濯しないで着ている人が多かったようです。
中学では、憧れのバスケ部に入りましたが、その年の冬に諦めました。一度着て汗の染み込んだウェアを教室のストーブで乾かすにおいに、耐えられなかったからです。
ところが驚いたことに、この女子バスケ部の一団は、不快な汗のにおいがしません。それどころか、皆ほのかによいにおいをさせているのです。
カルバン クライン「シーケーワン」やジバンシイの「ウルトラマリン」、などにはデオドラントのようなにおいもしています。
まわりに対するエチケットとして、最近では高校生も香りを使う時代になったことを知って、うれしくなりました。
本来、汗はほとんど無臭ですが、時間が経つにつれて皮膚の表面にいる常在菌の働きで、嫌なにおいに変わります。特に腋の下など湿った部位ではにおいが発生しやすくなります。
これを防ぐには、熱いときの長時間の外出にはデオドラントをつけること、できれば着替えを持っていくことです。また生乾きの衣類の悪臭は、アイロンをかけるだけでもかなりにおいを防げます。
冬の車内では、体臭や食べ物のにおいが染み込んだコートのにおいが、暖房のせいでひときわ強く感じられます。コートは、帰宅したからよくブラッシングして、風通しのよいところに吊るしておくことがおすすめします。
役作りをするための香水
色々な役を演じる女優・俳優は、役作りをするためによく香水を使うといわれています。
ある雑誌で、女優の大地真央さんは、『風とともに去りぬ』のスカーレット役のときは、ショパールの「カシミール」をつけて役作りをしたと語っています。
エキゾチックで華やかな気品がありながら、余計な甘さのないところがピッタリだと思ったそうです。
また、『クレオパトラ』を演じたときは、10代から30代まで、クレオパトラの成熟度に合わせて、「カシミール」をベースに、コム デ ギャルソン「ホワイト」やクリスチャン・ディオールの「ドルチェ ヴィータ」で、甘さや華やかさを盛り上げていったということです。
歌舞伎役者も役どころに合わせて香水を使うことで知られています。
名優のひとり、花柳章太郎さんは、エッセイで、男性が女性を演じる女形の場合、相手に本当の女性だと感じさせるためにも香水の力を借りることが多いと述べています。また、六代目・尾上菊五郎さんと、彼の女房役で共演した時に、菊五郎さんはいつも好ましい、男らしい香りを発散させていたので、本当に男の色気を感じた、とも述懐されています。
「演技がうまい、と言われるようではまだまだ本当の役者とはいえない」
たしか森繁久彌さんの言葉で、観客にすばらしい演技だと感じさせるようでは、まだ役になりきっていないという意味でしょう。深い言葉です。
人を感動させるためには、その役になりきったうえで、なおかつ人の心に訴えることが必要なのです。
「現在、女性がメイクにこれほど関心を持つのは、ただ美しくなりたいだけでありません。これよりも自分の新しい魅力を引き出したいとか、憧れのスターやセレブみたいになりたい、という変身願望があるからです」とは、ある美容ジャーナリストの話です。
しかし変身するためには、メイクやファッションといった目に見える部分だけでは十分ではありません。俳優のように、心からその役になりきることが大切なのです。
香水はそのためにも存在するのです。
香りは口ほどにものをいう
以前、世界五大都市の女性の「ハンドバックの中身」を、比較するという調査がありました。対象は、東京、パリ、ミラノ、ロンドン、ニューヨークに住むOLです。
これは、化粧という自己表現に対する考え方を国別に探るというとても興味深いものでした。
その結果東京では、「口紅とファンデーション類」を携帯する女性が多かったのですが、東京以外の都市では、「アイメイクと口紅と香水」が圧倒的に上位を占めていました。
日本では「美しい肌と艶やかな唇」が女性の魅力だと思っているのに対し、他の国々では、唇と同時に「目と香り」を重視しているのです。
自分の魅力を美しい肌と唇、つまり「視覚」だけでアピールしようとする日本女性と、印象的な目とよい香り、すなわち「視覚」と「嗅覚」の両面からより積極的に攻める欧米女性。この勝負、欧米女性のほうが一枚上手だな、と思いました。
ところで人と話をするとき、欧米ではしっかり相手を見て話します。相手の反応を確かめるのもさることながら、自分の思いをきちんと伝えようとするからです。
一方、日本人は話をするとき伏目がちで、人間関係や自己表現においてもはっきりさせないで、曖昧さを残そうとする傾向があります。
香りにおける意識もこれに共通します。
日本人はほのかで安らぎのある香りを好みますが、欧米では、個性を主張する香りが圧倒的に支持されてきました。つまり欧米人にとって自分をアピールする香水とアイメイクはいわば必然だったのです。
しかしここ数年、日本でもマスカラが中心に、目元にポイントをおくメイクがすっかり定着しました。これに呼応するかのように個性的な香りを漂わせる女性も増えてきています。
目だけでなく香りも「口ほどにもものをいう」ことに、日本女性も、気づいたからに違いありません。
フェロモンとは?
フェロモン女優とかフェロモン香水などと聞くと、セクシーでエロチックな連想をしますが、フェロモン本例の意味は、「におい信号」のことです。
においで交尾の時期を知らせたり、食べ物のありかを教えたり、動物が生きていくためになくてはならないものです。
たとえば香水になくてはならない香料のムスクは、ジャコウジカのオスの股間にある生殖腺から分泌するにおい物質=フェロモンで、汗やオシッコに似たにおいがします。ジャコウジカは普段は縄張りを作り単独で生息していますが、一年のうちある期間だけの生殖期に、オスはこのにおいを分泌してメスを呼び寄せるのです。
また、アリは食べものを見つけると、腹部を地面にこすりつけ微量のにおい=フェロモンをつけながら巣に持ち帰ります。すると他のアリたちはこのにおいをたどって残りのたべものを取りにいくのです。ところが食べ物がなくなると、他のアリが無駄足を踏まないよう、においをつけなくなります。
とてもよくできたコミュニケーション手段ですが、他にも、縄張りを示す、仲間を集める、危険を知らせるなどといったフェロモンがあります。
しかし肝心なことは、フェロモンは同種の生物の間だけに通用するにおい信号であるということです。馬と鹿、犬と猿のように種が異なると、この信号は通じません。
もちろんヒトにもフェロモンがあります。ヒトの場合、アポクリン腺から出る汗に含まれています。この汗は体毛のある部分、特に脇の下から分泌します。
気づかないほど極めて微かなにおいですが、男性の腋の下の汗の成分を嗅ぐと、女性の生理不順が正常化したり、またこれをつけた椅子とつけてない椅子があると、ほとんどの女性がつけたほうの椅子に座りたがる、など興味深い実験結果が発表されています。また女性の腋の下の汗に、男性が反応することもわかっています。
ただしヒトの場合、進化の過程で視覚が発達したので、その分、臭覚は退化したと考えられています。
したがって、性フェロモンを感じても動物のようには興奮しません。それよりも、セクシーな写真や文章のほうが感じるのです。
しかし、もしそのにおいが、過去の性的な思い出に結びついているときは、興奮することもあるといわれています。
モテる香水って、本当にあるの?
口には出さないけど、誰もがほしいと思っているのがモテる香水でしょう。
クレオパトラや楊貴妃の例を引くまでもなく、香りは歴史を彩る美女たちの重要な武器でした。『源氏物語』でも、香を焚きしめた衣服が恋のかけひきに重要な役割を演じています。
この香りの魔力は時代を隔てた現在でも健在です。香水には、たとえばジバンシイの「ヴェリィ イレジスティブル=とても抵抗できない」やエスカーダ「マグネティックビート=惹きつける鼓動」やニナリッチ「プルエミ ジュール=初めての日」などといった異性を意識したネーミングがよく見られます。
また、最近では、ウェブサイトでも、ストレートに「フェロモン入り」と謳う香水が多数販売されています。
でも、これらの香りをつけると、本当にモテるようになるのでしょうか?
私たち人間は、もしフェロモンを感じたとしても、動物と同じようには興奮しない、いやできないのです。
太古、人の祖先も4本足で歩いていました。その頃は他の動物と同じように臭覚がよく働き、フェロモンにも左右されていたかもしれません。しかし二足歩行に移行する過程で視覚が進化し、それに反比例して臭覚が次第に退化していったと考えられています。
時代が経つにつれ、人の脳は次第に大きくなり、理性やイマジネーション(想像力)が働くように進化を遂げました。
たとえば大好きな男性歌手の歌声を聴くとワクワクしますよね。ロマンチックな映画を観たり、恋愛小説を読んだりすると胸が高鳴るでしょう。シルクの下着を付けた日は、なんだかセクシーな気分になりませんか。これがイメジネーションです。
実は香水もそれとまったく同じです。
この香りをセクシーだと感じれば、セクシーなイメジネーションが働くのです。このイメジネーションが、女性を内面から輝かせたり、自信に満ちた行動を引き出しするのです。
そういった意味では、モテる香りは確かにあるといえます。